はぁ、とついため息が出る。
今日は色んな意味で疲れた。 女子四人でメイクしたから午後から合流しないかと連絡が来たのが丁度昼飯を食っていた頃。 花田は来れないからと、工藤と小林と合流して待ち合わせ場所に行くまでは良かった。 今日も灯里に会えると思うだけでほのかに喜びが湧いて来る。 早く俺の女になってくれねぇかなと気は急くが、まかり間違って好きじゃないなんて言われたらたまったもんじゃない。 鈍感なところも可愛いけど、返事を急がせると何か変な勘違いして友達止まりになりかねない。 だから適度にちょっかいを出しつつ我慢しているってのに……。 待ち合わせの場所まで行って見えた光景に、目の前が真っ赤に染まったかの様だった。 灯里が、杉沢に抱きしめられていたから。 肩に腕を回され、腰を引き寄せられて密着している体。 しかも顔が近い。 何があったのか。 どうしてそんな事されているのか。 考える暇もなく体が動いた。 灯里を取り返して、杉沢を威嚇しながら凶暴な感情が体中を駆け巡る。 俺以外に灯里に触れた男をボコボコにしてやりてぇ。 でも、それだけじゃなくて……。 こんな男に触れさせた灯里にも怒りが湧いてきて……。 もう理性なんてぶっ飛ばして、無茶苦茶にしてでも俺のものにしてやりたくなった。 俺の腕の中で安心した様に力を抜いて、俺を求めるように腕をキュッと掴まれなかったら感情のままに何かしていたかもしれねぇ。「……我慢も限界かもしれねぇ……」 両手で目を覆うようにして、呟く。「あー。まあ、日高はかなり我慢してると思うぜ?」 独り言の様な呟きに返事があった。 杉沢も帰って、女子も今日は「でもさ、それ反対するやつも多いんじゃないか? メイクに興味のない男子とか」 あたしの不安を言葉にしたのは小林くん。 確かに男子は特に、だろう。 カッコ良くなりたいとは思うかもしれないけれど、美しくなりたいとは思わないだろうから。「そうね。だから、明日も実演しようかと思うの」 小林くんの言葉に美智留ちゃんはそう返した。「女子の代表として灯里に、男子の代表として日高にね」「……え?」「はぁ!?」 あたしの声にかぶさるように陸斗くんが驚きの声を上げる。 そんなあたし達のフォローをするように、さくらちゃんが口を開いた。「でも、それをしちゃうと二人が本当は地味じゃないって皆にバレちゃうんじゃないの?」 その通りだ。 あたしは校則違反しない様にって理由だから、ちゃんと毎日持ち物とか気を付ければ何とかなるだろう。 ……まあ、それが出来るかは置いといて。 でも陸斗くんは元総長ってことがバレないようにとか、もっと深刻な秘密を抱えている。 皆にバレるのは困ると思うんだけど……。 そんな心配をするあたし達に、美智留ちゃんは諭すように話し始めた。「まずよーく考えて? 二人が地味である必要って、本当にある?」「……」 改めて聞かれて、言葉が出ない。 必要だと思ってはいるんだけれど、本当に? と聞かれるとどうなんだろうと思ってしまう。「灯里はメイク道具とか学校に持って来てしまいそうだからって言うけれど、結構皆違反物学校に持って来てるのよ? しかも先生たちも持ち物検査の時とか授業中以外は見逃してくれるらしいし」「え? そうなの?」 休み時間や放課後でも咎められるのかと思っていた。「日高は元総長だってのがバレないように、でしょ?
休み明けは当然と言えば当然だけれど、校外学習の話題がほとんどだった。 皆スマホで撮った写真なんかを見ながら思い出話に花を咲かせている。 そんな中、あたし達は少し悩んでいた。「……レポート、何書こう……」 動物園のことを書くんだけれど、何を書くべきなのか。 行く前は動物や添えてある説明書きを写真にでも撮っておけば後で確認しながら適当に書けるだろうと思っていた。 ふれあいコーナーでは担当の係の人がいるから、動物のちょっとした生態などを聞ければレポートにするには丁度良いと思っていた。 でも、結果は……。「ヤバイ。写真とか全然撮ってない……」 少しは撮ったけれど、目玉である象のところはすぐに離れたし、色々あってふれあいコーナーは行くことすら出来なかった。 最後に慌てていくつか撮ったものは、急いでいた所為か説明書きなんかはすごくぶれてて読みにくい。 あたしと陸斗くんはそんな感じ。 さくらちゃんと花田くんもあたし達よりはマシかなって程度。 沙良ちゃんと小林くんは自分たちが書く分しか用意していなかったし……。 結果、頼りになるのは美智留ちゃんと工藤くんだけだった。「仕方ないなー。まあ、一応出来る限り写真撮ってメモしておいて良かったよ」「うう……。ありがとうー」「凄く助かるよー」 あたしとさくらちゃんが手を合わせて拝むようにすると、「地蔵かよ」と陸斗くんが突っ込む。「あ、そう。地蔵には写真も撮れないんだし、あんたはいらないってことね?」「スミマセンデシタ」 青筋を浮かべてそうな笑顔で美智留ちゃんが言うと、陸斗くんは間髪入れずに謝る。 陸斗くん……。 花田くんみたいに素直にお礼だけ言えばいいのに。 ちょっと呆れつつ、
はぁ、とついため息が出る。 今日は色んな意味で疲れた。 女子四人でメイクしたから午後から合流しないかと連絡が来たのが丁度昼飯を食っていた頃。 花田は来れないからと、工藤と小林と合流して待ち合わせ場所に行くまでは良かった。 今日も灯里に会えると思うだけでほのかに喜びが湧いて来る。 早く俺の女になってくれねぇかなと気は急くが、まかり間違って好きじゃないなんて言われたらたまったもんじゃない。 鈍感なところも可愛いけど、返事を急がせると何か変な勘違いして友達止まりになりかねない。 だから適度にちょっかいを出しつつ我慢しているってのに……。 待ち合わせの場所まで行って見えた光景に、目の前が真っ赤に染まったかの様だった。 灯里が、杉沢に抱きしめられていたから。 肩に腕を回され、腰を引き寄せられて密着している体。 しかも顔が近い。 何があったのか。 どうしてそんな事されているのか。 考える暇もなく体が動いた。 灯里を取り返して、杉沢を威嚇しながら凶暴な感情が体中を駆け巡る。 俺以外に灯里に触れた男をボコボコにしてやりてぇ。 でも、それだけじゃなくて……。 こんな男に触れさせた灯里にも怒りが湧いてきて……。 もう理性なんてぶっ飛ばして、無茶苦茶にしてでも俺のものにしてやりたくなった。 俺の腕の中で安心した様に力を抜いて、俺を求めるように腕をキュッと掴まれなかったら感情のままに何かしていたかもしれねぇ。「……我慢も限界かもしれねぇ……」 両手で目を覆うようにして、呟く。「あー。まあ、日高はかなり我慢してると思うぜ?」 独り言の様な呟きに返事があった。 杉沢も帰って、女子も今日は
メイクした姿を男子たちに見せたいだけだったので、集まった後はどうするか具体的には決めていなかった。 だから無難に近くにあるカフェに入る。 当然の様について来る杉沢さんを陸斗くんが物凄く睨んでいた。 でも他の皆は警戒はしつつも、こんな人目のあるところで変なことはしないだろうという感じで一緒に来る事を拒んだりはしなかった。 やっぱり助けてくれたからっていう思いもあるんだと思う。 それに思い返してみれば、あたしも酷いことは一度もされていない。 ……セクハラはされてるけれど。 何にせよ、一緒に来ることを拒否するとメガネ返してくれないみたいだったし。 それに日差しが強くなってきて外にいると暑かった。 涼める店の中に行きたいと言うのは、皆同じ意見だったから。 ……でも、どうして座る席がこうなっちゃうかな? あたしの右隣には陸斗くん。 そして左隣には杉沢さん。 隙を見ては肩やら腰やらを抱こうとしてくる杉沢さんと、その手を外しては威嚇しながら自分の方にあたしを引き寄せる陸斗くん。 そんな二人に挟まれるのは色んな意味で疲れる。 杉沢さん、違う席に座ってくれないだろうか。 それかいっそあたしが他の席に座るとか。 誰かこっちに座れば? って言ってくれないかな? そう思って目線を上げると、まずはさくらちゃんと目が合った。 合ったと同時にあたしの意図を察したみたいだけれど……。 さくらちゃんは手を合わせてゴメンのポーズを取り、神妙な顔で首を横に振った。 ごめん、無理。 簡潔にそう言われた気がした。 沙良ちゃんと美智留ちゃんにも同じようにされる。 その二人の争いには巻き込まれたくない、と顔に書いてあった。
「……じゃあ、あたしの肩からも腕下ろしてくれませんか? 杉沢さん」 要望を告げつつ、美智留ちゃん達に彼が誰なのかを知らせる意味で名前を言う。「え? 灯里ちゃん知り合いなの?」「ん? 杉沢って最近どっかで聞いたような……?」 後ろの方でさくらちゃんと沙良ちゃんの疑問の声が聞こえる。 その答えは美智留ちゃんが口にした。「杉沢さんって……もしかして一昨日灯里が気に入られたっていう……」 肩から腕を下してもらって、自由になった美智留ちゃんの驚いた表情が見える。「俺の名前覚えててくれたんだ? 嬉しいね。そう、杉沢 鶴って言うんだ。下の名前で呼んでくれるともっと嬉しいんだけれど?」 そう言って杉沢さんはギュウっとあたしを抱きしめる。「ちょっ!?」 あたし腕下ろしてって言ったのに! 下ろさない上にそのままギューしないでよ!「呼びません! それと放してください!」 もう一度要求したけれど、全く放してくれる様子は無い。 それどころか、肩の辺りにあった手が下におりてきて腰も抱かれる。「灯里ちゃんって抱き心地も良いんだねぇ。このまま色々奪っていい?」 ダメに決まってるでしょーーー!!! 突っ込みも最早声に出せない。 そうしてやっぱり離してくれない杉沢さんだったけれど、突然前触れもなくパッとあたしを離して距離を取った。 いきなりどうしたのかと思ったら、また誰か別の人があたしの体を後ろから抱き締める。 一瞬身構えたけれど、頭の上から聞こえてきた声に力を抜く。「てめぇ、どっから湧いて出てきた」 威嚇でもする様に低い声でそう言ったのは陸斗くんだ。 ナンパされてからずっと気を張っていたみた
朝に三人と待ち合わせた駅で男子とも合流することにしたんだけれど、あたし達の方が先についたみたいだった。「あっちも合流してからここに来るって言ってたから、もうちょっと時間かかるのかもね」「日高とか、遅刻魔だしね」 美智留ちゃんの言葉に、沙良ちゃんが冗談めかしてそう言う。 だからあたしはフォローを入れておく。「最近は寝不足にはなってないから多分大丈夫だよ。昨日だって遅刻はしてなかったでしょう?」「そういえばそうだったね」 そんな会話をする中、さくらちゃんが小さく溜息をつく。「司くんは来れないなんて……あーあ、見てもらいたかったな……」 残念がる彼女を美智留ちゃんが慰めていた。 そう。 花田くんだけは今日は家の用事があって少し遠出しているらしい。 すぐに来れる場所にいないため、今日は花田くんだけ不参加だ。 そんな話をしながら陸斗くん達を待っていると、知らない人に声を掛けられた。「君達皆可愛いね。暇なら俺達と遊ばない?」 大学生くらいだろうか。 二十歳前後の男の人三人があたし達を囲む様に近付いてきた。「え? あの……」 突然の事に戸惑う。 でもすぐに分かった。これ、ナンパだ。 人生二度目のナンパ。 とは言っても、前回は戸惑っているうちに勝手に揉め事になって相手が去って行ったけれど。 しかも相手は三人。 明らかにあたし以外の三人が目当てで寄って来ている。「いえ、あたし達待ち合わせしているので遠慮します」 あたしが守らなきゃ、なんてちょっとした使命感が芽生えてハッキリとお断りする。 でも彼らはそれだけだと離れて行ってはくれなかった。「相手は男? だったら待たせとけばいいじゃん。こんな可愛い子達待たせるとか